放射線物理学では、X線やγ線が物質を通過するとき、物質との相互作用によって光子の数が少しずつ減っていきます。この現象を光子の減弱といいます。
光子の減弱は、X線画像のコントラスト、放射線防護、遮蔽計算などを理解するうえで欠かせない考え方です。今回は、減弱の意味から指数減弱の式、線減弱係数、質量減弱係数、半価層、1/10価層までを順番に解説していきます。
光子の減弱とは?
光子の減弱とは、光子が物質と相互作用することで、入射した方向に進み続ける一次光子の数が減少する現象です。

図1 光子が物質に入射した時の反応
光子が物質に入射すると、一部は吸収され、一部は散乱されます。吸収された光子は消失し、散乱された光子は進行方向が変わるため、もとの方向へ進む一次光子から外れます。その結果、物質を透過した一次光子の数は入射前より少なくなります。
ここで注意したいのは、減弱と吸収は同じ意味ではないことです。減弱には、光電効果などによる吸収だけでなく、コンプトン散乱やレイリー散乱によって光子が一次線束から外れることも含まれます。
指数減弱の式
細い光子線束が、均一な物質を通過するとき、透過する一次光子数は次の式で表されます。
$$I=I_0 e^{-\mu x}$$
- I:厚さ x の物質を通過した後の光子数
- I0:物質に入射する前の光子数
- μ:線減弱係数
- x:物質の厚さ
この関係を指数減弱といいます。グラフは直線ではなく、最初に大きく減少し、その後は緩やかになる曲線です。これは、同じ厚さの物質を追加するたびに「同じ数」ではなく、残っている光子のうち同じ割合が減っていくためです。

図2:指数減弱曲線と半価層・1/10価層
線減弱係数とは?
線減弱係数 μ は、光子が単位距離を進む間に相互作用して、一次線束から取り除かれる(減弱する)割合を表す係数です。単位には cm−1 や m−1 が用いられます。
μ が大きい物質ほど光子は減弱しやすく、透過しにくくなります。反対に、μ が小さい物質では光子が透過しやすくなります。線減弱係数は、光電効果、コンプトン散乱、電子対生成など、各相互作用による寄与の合計です。
つまり、光子エネルギーによって支配的な相互作用が変わると、線減弱係数も変化します。低エネルギー領域では光電効果、中間のエネルギー領域ではコンプトン効果、1.022 MeVを超える高エネルギー領域では電子対生成が関係してきます。
質量減弱係数とは?
線減弱係数 μ は物質の密度にも依存します。そこで、線減弱係数を密度 ρ で割ったものを質量減弱係数といいます。
$$\frac{\mu}{\rho}$$
質量減弱係数の代表的な単位は cm2/g です。密度の影響を取り除いて比較できるため、元素、化合物、混合物の減弱特性を示すデータとしてよく用いられます。
半価層と1/10価層
半価層(HVL:half-value layer)とは、光子の数を最初の 1/2 に減少させる物質の厚さです。指数減弱の式に I=I0/2 を代入すると、次の関係が得られます。
$$HVL=\frac{\ln 2}{\mu}=\frac{0.693}{\mu}$$
半価層を2枚分通過すると光子の数は 1/4、3枚分では 1/8 になります。一般に、n 枚分の半価層を通過した後の光子数は次のように表せます。
$$\frac{I}{I_0}=\left(\frac{1}{2}\right)^n$$
同様に、光子数を最初の 1/10 にする厚さを1/10価層(TVL:tenth-value layer)といいます。
$$TVL=\frac{\ln 10}{\mu}=\frac{2.303}{\mu}$$
計算例
線減弱係数が 0.35 cm−1 の物質について、半価層を求めてみます。
$$HVL=\frac{0.693}{0.35}=1.98\ \mathrm{cm}$$
したがって、約 1.98 cm の厚さで光子数は 1/2 になります。約 3.96 cm、つまり半価層2枚分では、光子数は 1/4 まで減少します。
光子の減弱を決める3つの要素
1.光子のエネルギー
相互作用の起こりやすさは光子エネルギーによって変化します。同じ物質でも、X線やγ線のエネルギーが変われば減弱係数は同じではありません。
2.物質の種類と密度
原子番号や電子密度、物質密度が異なると、光電効果やコンプトン効果などの起こりやすさも変わります。一般に、密度が高く、相互作用が起こりやすい物質ほど光子は大きく減弱します。
3.物質の厚さ
厚さ x が大きくなるほど、光子が物質中で相互作用する機会が増えるため、透過する一次光子は少なくなります。
指数減弱の式を使うときの注意
単純な指数減弱の式は、主に細い線束(ナロービーム)で、散乱線が検出器に入りにくい条件を想定しています。実際の広い線束では、物質中で発生した散乱光子も検出器に入るため、単純な式から予測される値より測定強度が大きくなることがあります。この影響を扱うときに用いられるのがビルドアップ係数です。
国家試験で押さえたいポイント
- 減弱には、光子の吸収と散乱の両方が含まれる
- 指数減弱の式は I=I0e−μx
- 線減弱係数 μ の代表的な単位は cm−1
- 質量減弱係数 μ/ρ の代表的な単位は cm2/g
- 半価層は 0.693/μ、1/10価層は 2.303/μ
- 減弱係数は、光子エネルギーと物質の種類によって変化する
まとめ
光子の減弱は、X線やγ線が物質中で吸収・散乱され、一次光子の数が減少する現象です。均一な物質中での一次光子の減少は指数関数で表され、線減弱係数が大きいほど、また物質が厚いほど光子は透過しにくくなります。
指数減弱の式、線減弱係数と質量減弱係数の違い、半価層の公式は、診療放射線技師国家試験でも重要です。式だけを覚えるのではなく、「同じ厚さごとに、残っている光子の同じ割合が減る」というイメージと一緒に理解しておきましょう。
