光子と物質の相互作用には、光電効果、コンプトン効果、電子対生成などがあります。これらについては以前の記事で説明しました。
今回は、さらに高いエネルギーの光子によって起こる光核反応について説明していきます。
光核反応とは
光核反応とは、高エネルギーのX線やγ線が原子核に吸収され、原子核から中性子や陽子などが放出される現象です。光壊変や光核反応による核分解とよばれることもあります。
光電効果やコンプトン効果では、光子は主に原子の軌道電子と相互作用します。一方、光核反応で光子が相互作用する相手は原子核そのものです。
原子核が光子を吸収すると、原子核は余分なエネルギーを持った不安定な状態になります。この状態を励起状態といいます。励起した原子核は、余分なエネルギーを放出して安定な状態に戻ろうとするため、中性子や陽子などを放出します(図1)。

図1 光核反応の発生過程
光核反応では、最初に原子核へ入射した光子は吸収されて消滅します。また、粒子を放出した後には、入射前とは異なる原子核が残ります。この原子核を残留核といいます。
(γ,n)反応と(γ,p)反応
光核反応は、原子核から放出される粒子によって表し方が変わります。
中性子が1個放出される反応は(γ,n)反応と表します。
{}^{A}_{Z}X+\gamma \rightarrow {}^{A-1}_{Z}X’ + n
$$
(γ,n)反応では中性子が1個減るため、残留核の質量数は1減少します。しかし、陽子の数は変わらないため、原子番号は変化しません。
一方、陽子が1個放出される反応は(γ,p)反応と表します。
(γ,p)反応では陽子が1個減るため、残留核の質量数と原子番号がそれぞれ1減少します。
一般に、陽子は正の電荷を持っているため、原子核の外へ出るときにクーロン力による反発の壁を越えなければなりません。中性子には電荷がないため、条件によっては陽子よりも放出されやすく、(γ,n)反応が代表的な光核反応として扱われます。
光核反応の発生条件
光核反応は、どのようなエネルギーの光子でも起こるわけではありません。原子核から中性子や陽子を取り出すためには、原子核を結びつけているエネルギーを上回る必要があります。
この反応を起こすために必要な最低エネルギーをしきい値またはしきいエネルギーといいます。
ここで大切なのは、光核反応のしきい値はすべての物質で同じではないという点です。しきい値は、放出される粒子や対象となる核種によって異なります。
多くの核種では、およそ10 MeV程度またはそれ以上の光子によって光核反応が問題になります。ただし、重水素やベリリウム9のように、約 2 MeVという比較的低いエネルギーから光核反応が起こる核種もあります。
たとえば重水素では、次の反応によって陽子と中性子に分かれます。
この反応のしきい値は約2.2 MeVです。
したがって、「光核反応は必ず10 MeV以上で起こる」と覚えるのではなく、しきい値は核種ごとに異なると理解することが重要です。
医療用リニアックと光中性子
光核反応は、高エネルギーX線を使用する放射線治療とも関係します。
医療用リニアックでは、高速の電子をターゲットへ衝突させることで制動X線を発生させます。高エネルギーX線の一部が、ターゲット、コリメータ、マルチリーフコリメータなどを構成する物質の原子核に吸収されると、(γ,n)反応によって中性子が発生することがあります。この中性子を光中性子といいます。
とくに10 MVを超えるような高エネルギーX線では、装置ヘッド内での光中性子の発生が問題になりやすくなります。
光中性子が発生すると、治療に用いるX線とは別に中性子による被ばくが加わります。また、中性子が装置や治療室内の物質と反応することで、放射化が起こることもあります。
そのため、高エネルギー放射線治療では、光中性子の発生、遮蔽、室内への残留放射線などを考慮する必要があります。
ほかの相互作用との違い
光電効果、コンプトン効果、電子対生成、光核反応の違いを図2にまとめます。

図2 光子と物質の相互作用の比較
| 相互作用 | 主な相手 | 反応後の光子 | 主な生成物・特徴 |
|---|---|---|---|
| 光電効果 | 内殻軌道電子 | 消滅 | 光電子 |
| コンプトン効果 | 自由電子に近い外殻電子 | 散乱 | 反跳電子、散乱光子 |
| 電子対生成 | 原子核の電場 | 消滅 | 陰電子と陽電子、1.022 MeV以上 |
| 光核反応 | 原子核そのもの | 消滅 | 中性子、陽子、残留核など |
電子対生成も原子核の近くで起こりますが、原子核は主に運動量を保存するための相手として働きます。これに対して光核反応では、原子核が光子を吸収して励起するという点が大きな違いです。
まとめ
- 光核反応は、高エネルギーの光子が原子核に吸収されることで起こる
- 励起した原子核から、中性子や陽子などが放出される
- (γ,n)反応では質量数が1減り、原子番号は変わらない
- (γ,p)反応では質量数と原子番号がそれぞれ1減る
- 光核反応のしきい値は、放出される粒子や核種によって異なる
- 高エネルギー放射線治療では、光核反応によって発生する光中性子に注意が必要
光核反応は、光電効果やコンプトン効果と比べると起こる確率は小さいですが、高エネルギーの放射線を扱うときには重要な現象です。とくに、「何と相互作用するのか」「しきい値は一定ではない」「(γ,n)反応で何が変化するのか」を整理して覚えておきましょう。
