電子対生成

放射線物理学

光子と物質の相互作用は、主に光電効果、コンプトン効果、電子対生成の3つが代表的です。なかでも電子対生成は、光電効果やコンプトン効果が発生する光子のエネルギーよりも、さらに高いエネルギーで発生します。今回はこの電子対生成についてわかりやすく解説します。

電子対生成とは

電子対生成はX線やγ線のような光子が電子と陽電子のペア(電子の対)に変換される現象です。電子の対を生成した後、光子は消滅します。

光子(X線やγ線のこと)が物質中の原子核の近くを通過すると、光子が消滅し電子と陽電子の2つの粒子に変換されます(図1)。

図1:電子対生成の発生

この現象は、光子のエネルギーが 1.022MeV 以上でなければ起こることはありません。このエネルギーのことを閾値閾エネルギーなどと表現します。

電子の静止エネルギー0.511MeV です。電子対生成では電子と陽電子の2つが生成されるため、必要なエネルギーは 0.511×2個 = 1.022MeV となります。

1.022MeV の光子によって生成された2つの電子は、運動エネルギーをもち物質の中を進んでいきます。

この様子は、以下の式で表されます。

$$
h\nu=2m_ec^2+E_{e^-}+E_{e^+}
$$

ここで、hν は入射光子のエネルギー、mec2 は電子の静止質量エネルギー、Ee– は陰電子の運動エネルギー、Ee+ は陽電子の運動エネルギーを表しています。

例えば、入射光子のエネルギーが 5.11MeV であれば、1.022MeVのエネルギーを使い2つの電子を生成します。この時点で余っているエネルギーは、5.11MeV ー 1.022MeV = 4.088MeV となります。この 4.088MeV のエネルギーが2つの電子の運動エネルギーとして分配されます。この時、4.088MeVのエネルギーが必ず半分ずつに分配されるという決まりはありません半分ずつ分配されるときもあれば、どちらかに偏ったエネルギーを分配することもあります。こちらに関しては、国家試験でも狙われるポイントとなるため注意してください。

生成された電子のその後

生成された陰電子(マイナスの電子)は別の記事でも解説したように、物質を電離したりクーロン力により進路を曲げられたりしながら、運動エネルギーがなくなるまで進んでいきます

生成された陽電子は、その挙動に少しクセがあります。物質中を進む際に、電離やクーロン力によって運動エネルギーがなくなるまで進む点については陰電子と同様です。しかし、陽電子の運動エネルギーがゼロになる瞬間に、付近の陰電子と結合し消滅します。これを陽電子消滅といいます。この陽電子消滅に伴い、511keV のエネルギーを持つ消滅放射線(消滅光子)を180度方向に2本放出します(図2)。

図2:陽電子消滅の様子

三対子生成

電子対生成と似ている現象に三対子生成という現象があります。電子対生成は原子核の近くを通過する際に発生する現象でしたが、三対子生成は軌道電子の近くで2つの電子を生成する現象です。軌道電子の近くで電子対生成が発生することで、軌道電子も一緒に飛び出すという現象になります。そのため、電子対生成では電子と陽電子の2つの電子が飛び出しましたが、三対子生成では電子と陽電子に加えて軌道電子が飛び出します(図3)。

図3:三対子生成の様子

三対子生成は電子が合計で3つ飛び出す現象なので、必要な光子のエネルギーは 1.533 MeVと思いたいところですが、実は 2.044MeV 以上のエネルギーが必要であると言われています。これは勘違いが起きやすいので、国家試験でもよく狙われるポイントとなります。

2.044 MeV 以上のエネルギーが必要な理由はあるのですが、数式による導きが必要となるので放射線取扱主任者の記事で解説したいと思います。

まとめ

  • 電子対生成は光子が原子核の近くで陰電子と陽電子を生成する現象
  • 電子対生成が起こるためには、光子のエネルギーは 1.022MeV 以上でなければならない
  • 生成された陰電子は、電離やクーロン力により次第に運動エネルギーを失っていく
  • 生成された陽電子は、陰電子と同様な機序で運動エネルギーを失っていくが、陽電子の運動エネルギーがなくなる瞬間に付近の陰電子と結合し消滅する
  • 陽電子消滅によって、180度方向に 511keV の消滅放射線を2本放出する
  • 三対子生成は軌道電子の近くで陰電子と陽電子を生成する現象
  • 三対子生成は陰電子と陽電子の生成に加え、その反動で軌道電子も飛び出す現象
  • 三対子生成が起こるためには、光子のエネルギーは 1.022MeV 以上でなければならない