光子と物質の相互作用には干渉性散乱、光電効果、コンプトン効果、電子対生成、光核反応があります。なかでも、光電効果、コンプトン効果、電子対生成は光子と物質の相互作用としてとても重要な項目です。今回は光電効果について説明していきます。
光子(電磁波)とは
以前の記事(X線の種類と発生方法)でも軽く触れましたが、X線やガンマ線は電磁波というグループに所属していて、その中には光や電波なども含まれています(図1)。

図1 電磁波の分類
電磁波はエネルギーの強さによって図1のように分類され、そのエネルギーには振動数と波長が関係し、以下の式によって表されます。
$$
E\bigl[J\bigr]=h\bigl[Js\bigr]×ν\bigl[s^{-1}\bigr]=h\bigl[Js\bigr]×\frac{c[m/s]}{λ[m]}
$$
Eは電磁波のエネルギー、hはプランク定数(6.626×1034)、νは振動数、cは光速(3.0×108)λは波長を表しています。
光電効果
光電効果とは、光子(電磁波)が物質にあたることで、物質から電子が飛び出す現象です。光子が物質を構成している電子をはじくことで発生します。(図2)

図2 光電効果
しかし、どのような光子でも光電効果が起こる訳ではありません。まずは、光電効果の発見を歴史的に説明し、どのような条件で発生するのかを説明します。
電磁波は波でもあるが粒子でもある(光量子仮説)
光電効果は、可視光による実験で発見されましたが、ある疑問点が生まれました。当時の研究者たちは、「強い光(明るい光)を物質に当てることで光電効果が発生する」と考えていました。しかし、赤色の可視光をどれだけ明るくしたとしても光電効果が起こることはありませんでした。これに対して、紫色の可視光を使用した場合、暗い光でも光電効果が起こりました。
これらをふまえると、光の明るさに注目するのではなく、別の視点で光電効果を考えなければなりません。このとき注目されたのが光のエネルギーです。
前述のように、光のエネルギーはE=hνと表されます。図1を見てみると、赤色と紫色を比べた場合、紫色の方が赤色よりも振動数が高く波長が短いため、エネルギーが赤色よりも高くなります。
また、光を物質に当てることで電子が飛び出すため、電磁波は波としての性質だけではなく、粒子(エネルギーを閉じ込めたボールのイメージ)としても振る舞うという風に考えた方が都合がいいです(図3)。この概念を光量子仮説といい、アインシュタインが導入しました。

図3 電磁波と光量子
光電効果の発生条件
光電効果の発生にはある程度の光エネルギーが必要なことが分かりましたが、どれくらいのエネルギーが必要なのかを考えていきます。
以前の記事(特性X線の発生とその特徴)でも説明したように、物質を構成する原子は原子核と軌道電子でできています。軌道電子は結合エネルギーによって、K殻やL殻などといった軌道に留まることができます(図4)。

図4 物質による結合エネルギーの違い
つまり、この結合エネルギーを断ち切らなければ、軌道電子は原子の外に飛んでいくことはでないということになります。原子の外に飛んでいく軌道電子の運動エネルギーをEeとすると、この関係式は以下のように書くことができます。
$$
E_e=hν-W
$$
ここで、hνは電磁波のエネルギー、Wは軌道電子の結合エネルギーを表しています。Wはイオン化エネルギー、ポテンシャルエネルギー、仕事関数などといわれることもあります。
ここからは、光子が物質へ入射した時の光電効果について説明していきます。
光子が物質を構成する原子の軌道電子に入射してきます。このとき軌道電子と衝突することで、自身のエネルギーを全て軌道電子に渡して原子の外に飛び出させます。このとき飛び出た軌道電子を特別に 光電子 とよびます。また、入射した光子はエネルギーを全て軌道電子に渡しているので、消滅します(図5)。

図5 光電効果
図5では、わざとK殻に光子がぶつかるように描いていますが、光電効果はK殻の軌道電子で発生しやすい(約80%)という特徴があります。
また、外側から入射してくる電磁波のエネルギーによって、光電効果を起こしやすい軌道電子は変わります。この時の光電効果の起こしやすさを図6に表します。

図6 鉛における光電効果の起こりやすさ
図6では、横軸が光子のエネルギー、縦軸が光電効果の質量減弱係数(光電効果の起こりやすさ)を表しています。
光子のエネルギーが高くなると、光電効果の起こりやすさは右肩下がりに(起こりにくく)なっています(図6左)。
しかし、光子のエネルギーが高くなると、ある点で急激に光電効果の起こりやすさが跳ね上がる領域があります。この領域を 吸収端 と言います。
この吸収端は、物質の結合エネルギーと一致することが知られています。吸収端が物質のK殻の結合エネルギーと一致するとき、K吸収端と呼び、L殻の結合エネルギーと一致したとき、L吸収端と呼んでいます(図6右)。
物質が鉛の場合、K殻の結合エネルギーは約88keVと知られているので、この付近のエネルギーの光子が入射してきたときには、K殻の軌道電子と光電効果を起こしやすくなります。L殻の結合エネルギーは約15keVと知られているため、この付近のエネルギーの光子が入ってきたときは、L殻の軌道電子と光電効果を起こしやすくなります。
対象物質が鉛の場合、入射光子のエネルギーが15keVから88keVの範囲では、光電効果は起こりますが、エネルギーが上昇するにつれて徐々に起こりにくくなります。
まとめ
光子と物質の相互作用には、光電効果、コンプトン効果、電子対生成があると説明しました。これらの相互作用は、入射光子のエネルギーと対象の物質により起こりやすさがある程度決まっていて、光電効果は入射光子のエネルギーが比較的低い領域で起こりやすいとされています(図7)。

図7 光子と物質の相互作用の関係
次回は、入射光子のエネルギーが少し高くなる領域であるコンプトン効果について説明する予定です。

