特性X線の発生とその特徴

放射線物理学

以前の記事(「X線の種類と発生方法」)で、特性X線は軌道電子の電離し、他の軌道から電子が遷移することにより引き起こされることを説明しました。

今回は特性X線について、少し踏み込んで説明していきます。

結合エネルギー

それぞれの軌道電子は、原子核と決まったエネルギーで結びついていて、これを 結合エネルギー と呼んでいます。

結合エネルギーは、内側の軌道電子ほど強く(原子核と強く結びつく)、遠くの軌道電子ほど弱く(原子核と弱く結びつく)なります(図1)。

図1 原子核と軌道電子間の結合エネルギー

特性X線の発生は電離が関係するため、入射電子がターゲット物質に衝突して軌道電子をたたきだす必要があり、そのためには入射電子のエネルギーが軌道電子の結合エネルギーよりも大きいことが必要になります。

特性X線のエネルギーと線スペクトル

例えば、特性X線はK軌道の軌道電子が空席となったとき、L軌道の電子がK軌道に遷移することで発生します(図2)。

図2 特性X線の発生とエネルギー

図2の場合、特性X線のエネルギーは以下のように表されます。

E(keV) = EK(keV) - EL(keV)   (式1)

※ Eは特性X線のエネルギー、EKはK軌道電子の結合エネルギー、ELはL軌道電子の結合エネルギーを表します。

このとき、特性X線は軌道間の結合エネルギーの差に相当するエネルギーを放出するため、必ず決まったエネルギーを放出することから、線スペクトル を示すと言われます。

Kα線とKβ線

K軌道の電子が空席となり、L軌道の電子がK軌道に遷移したとき、発生する特性X線を Kα と言い、M軌道からK軌道に遷移したときは、Kβ と言います。

例えば、Mo原子(モリブデン原子)の結合エネルギーは、K軌道電子で約20.0keV、L軌道電子で約2.5keV、M軌道電子で約0.4keVであると知られています(図3)。

図3 モリブデン原子における軌道電子の結合エネルギー

K軌道電子が空席になり、L軌道電子がK軌道に遷移した場合は、20.0keV2.5keV17.5keVのKαが放出され(図4左)、M軌道電子がK軌道に遷移した場合は、20.0keV0.4keV19.6keVのKβが放出されます(図4右)。

図4 モリブデン原子からのKα線(左)とKβ線(右)

もう1つ例を見てみます。

W原子(タングステン原子)の結合エネルギーは、K軌道電子で約69.5keV、L軌道電子で約10.0keV、M軌道電子で約5.0keVであると知られています(図5)。

図5 タングステン原子における軌道電子の結合エネルギー

K軌道電子が空席になり、L軌道電子がK軌道に遷移した場合は、69.5keV10.0keV59.5keVのKαが放出され(図6左)、M軌道電子がK軌道に遷移した場合は、69.5keV5.0keV64.5keVのKβが放出されます(図6右)。

図6 タングステン原子からのKα線(左)とKβ線(右)

このように、原子ごとに軌道電子の結合エネルギーが異なるため、放出される特性X線のエネルギーも変わります。しかしながら、特性X線が軌道間(例えば、K軌道とL軌道)の結合エネルギーの差に相当するエネルギーを放出すること自体は変わりません。
すなわち、特性X線は「 原子によって決められている単一エネルギーのX線 である」ことが分かります。

また、今回はK軌道の電子がが空席になった場合で説明しましたが、L軌道の電子が空席になった場合も同様に、Lα線(M軌道からL軌道へ遷移)、Lβ線(N軌道からL軌道へ遷移)が放出されます。

まとめ

  1. 原子核と軌道電子の結合エネルギーは、対象の原子によって異なる値を示す。
  2. 特性X線は、軌道間の結合エネルギーの差に相当するエネルギーを電磁波の形で放出する。
  3. 特性X線は単一エネルギーのX線であるため、線スペクトルを示す。
  4. 特性X線のエネルギーは、放出される原子によって異なる。

今回の記事で、特性X線の内容はほぼ終わりましたが、とりこぼしも少しあるため、別の記事で解説したいと思います。