原子核はクーロン力と核力などのバランスにより安定構造を保っています。
しかし、この安定性が崩れると、α線やβ線を放出することで安定な別の原子核に変化します。この現象を放射性崩壊または放射性壊変と呼んでいます。
クーロン力と核力
以前の(原子と原子核の構造)記事で、クーロン力は電荷と電荷の間に働く力と紹介しました(図1)。

図1 クーロン力
原子核は陽子と中性子で構成されており、陽子と陽子間に働く反発力のみ働いていることになるため、原子核がバラバラになってしまうという風にも考えられます。
しかし実際には、クーロン力のほかに核力というものが働いており、原子核がバラバラにならずに済んでいます。
クーロン力は弱い力と知られており、核力は陽子と陽子間、中性子と中性子間、陽子と中性子間に働く強い力として知られています(図2)。

図2 核子間に働く核力
(「三体核力」の存在を世界で初めて実験で証明—関口仁子 | Science Tokyo – 東京科学大学を参考に一部改編)
また、核力は、陽子を中性子に中性子を陽子に変換する力を持っています。これを交換力と言います。一方の核子(陽子または中性子)が中間子を放出し、これを他の核子が吸収することで、核子間に核力が働くと言われています。
α線の発生
α崩壊は原子番号が比較的高い元素で起こりやすく、約4~9MeVのα粒子を放出します。
比較的高い原子番号というと少し曖昧ですが、一般的には、原子番号92のウランU以上の元素で起こりやすいと言われています。
ウラン以上の元素を 超ウラン元素 と呼んだりしています。
α崩壊は原子核内の陽子の数が多くなり、クーロン力と核力のバランスが崩れる際に、陽子2個、中性子2個の ヘリウムの原子核 を放出して安定になります(図3)。

図3 α崩壊
ここで絶対に間違ってはいけないことは、「ヘリウムの原子核なのであってヘリウム原子ではない」ということです。
ヘリウム原子とヘリウムの原子核の違いは図4を確認してください。

図4 ヘリウム原子とヘリウム原子核の違い
以前の記事でも解説しましたが、原子は原子核と軌道電子から構成されています。
α崩壊では原子核から陽子と中性子のみが飛び出しているため、ヘリウムの原子核と呼んでいます。
α崩壊を起こした原子核は、原子番号が2、質量数が4減った新しい原子核に変化します。
例えば、原子番号92で質量数が238のウラン(U)がα崩壊を起こすと、α線(ヘリウムの原子核)と原子番号90で質量数が234のトリウム(Th)が放出されます。
また、崩壊前の原子核を 親核種、生成される新しい原子核を 娘核種 と言います。
β-線とβ+線の発生
β線は、β-線とβ+線の2種類に分けられます。
β-線は、原子核内の中性子の数が陽子の数と比較して過剰になるとき、中性子が陽子に変化し β-線(高速の陰電子) と 反ニュートリノ を放出します(図5)。

図5 β-崩壊
図5には、反ニュートリノが描かれていませんが、これは反ニュートリノが観測できないほど小さなものという意味が込められています。
原子核内の中性子が陽子に変化するので、原子番号が1増え、質量数は変化しない娘核種になります。
例えば、原子番号43で質量数が99のテクネチウム(Tc)がβ-崩壊を起こすと、β-線と原子番号44で質量数が99のルテニウム(Ru)が放出されます。
β+線は、原子核内の陽子の数が中性子の数と比較して過剰になるとき、陽子が中性子に変化し β+線(高速の陽電子) と ニュートリノ を放出します(図6)。

図6 β+崩壊
図〇には、ニュートリノが描かれていませんが、これはニュートリノが観測できないほど小さなものという意味が込められています。
原子核内の陽子が中性子に変化するので、原子番号が1減り、質量数は変化しない娘核種になります。
例えば、原子番号9で質量数が18のフッ素(F)がβ+崩壊を起こすと、β+線と原子番号8で質量数が18の酸素(O)が放出されます。
γ線の発生
一般的に、γ線のみを放出する核の崩壊は存在しません。α崩壊やβ崩壊の時に生じた娘核種がエネルギー的に不安定な時に、余分なエネルギーが γ線(電磁波) の形で放出されます(図7)。

図7 γ線の放出
エネルギー的に不安定な場合、質量数の後ろに「m」を付けて表現します。余分なエネルギーを放出し、エネルギーが安定状態の原子核になると「m」は外れます。
例えば、図7のように、原子番号42で質量数が99のモリブデン(Mo)がβ-崩壊を起こすと、原子番号42で質量数が99のテクネチウム(Tc)が生成されます。この際、約10%はエネルギーが安定な状態へと移行し、残りの90%はエネルギー的に不安定な状態に移行します。この90%の99mTcがγ線を放出し、安定状態の99Tcに移行します。
まとめ
- クーロン力は電荷間に働く弱い力であり、核力は核子間に働く強い力として知られています。
- α線はα崩壊が起こるときに放出され、その正体は陽子2個と中性子2個から構成されるヘリウムの原子核です。
- α崩壊に伴って生成される娘核種は、親核種と比べて原子番号が2つ減り、質量数が4減ります。
- β-崩壊は原子核内の陽子の数に比べ、中性子の数が過剰な時に発生します。
- β-線は高速の陰電子であり、中性子が陽子に変化する際に原子核の中から放出されます。
- β+崩壊は原子核内の陽子の数に比べ、中性子の数が過剰な時に発生します。
- β+線は高速の陰電子であり、中性子が陽子に変化する際に原子核の中から放出されます。
- γ線はα崩壊やβ崩壊の時に生じた娘核種がエネルギー的に不安定な時に、余分なエネルギーとして放出されます。
- α崩壊やβ崩壊の時に生じた娘核種がエネルギー的に不安定な時、質量数の後ろに「m」をつけて表現します。